VOL.45
「犬とにゃはー」
2009年3月の下旬。
多忙に満ちた決算期も終わりを告げようとしている。
東京も桜が満開し、
井の頭公園も大勢の花見客でにぎわっている。
そして、もうすぐ辺りにピカピカの1年生、
ピカピカの新入社員であふれかえろうとしている。。
ホコリとマテライトが通う傘舞大学も、数百人の新入生が入ってくる予定だ。
3月30日、月曜日の昼。
ホコリはマテライトと二人で昼飯を食べていた。
ホコリ
「にゃぁ・・」
1年ぶりに学校における先輩となるホコリは、
胸がワクワクしていた。
マテライト
「ん?」
マテライトは反応した。
マテライト
「おい」
ホコリ
「にゃ?」
マテライト
「にゃ、じゃなくて・・
何ワクワクしてんだよ」
ホコリ
「にゃはは、
先輩になんの久しぶりだなー、なんて(笑」
マテライト
「そうか?
面倒なヤツが増えるだけじゃん」
ホコリ
「んなことねーよ。
もしかしたら新しいこーはいと
仲良くなれるかもしんねー」
マテライト
「ダチ作るのも楽じゃねぇし」
ホコリ
「んなこと言うから
ナンパいつも失敗すんだぞ」
マテライト
「ぶっΣ」
マテライトは食べていたエビドリアを思い切り吹いた。
マテライト
「ゲホゲホ・・
てめ・・」
ホコリ
「にゃ、もしかしてまだ・・」
マテライト
「ば、バカ!」
ホコリ
「あー、ごめん><;」
マテライト
「ったく・・
いきなり何ぬかしやがる・・
俺が新入生の女の子に手ぇ出すわけ・・」
ホコリ
「え、するつもりだったのか?」
マテライト
「だからしねぇって!」
ホコリ
「に”ゃ”」
ホコリは思い切りゲンコツされた。
その帰り。
ホコリ
「にゃ・・
まだ痛ぇ;」
マテライト
「お前が悪いんだ」
ホコリ
「じょーだんなのにぃ」
マテライト
「分かっててもでけぇ声で言うな」
ホコリ
「むぅ・・」
マテライト
「じゃあな」
マテライトは少しムキになった表情で
そそくさと反対側のホームへと向かっていった。
ホコリ
「いーすぎたかな・・」
その後、国分寺駅に着いたホコリは
まっすぐ家に向かう途中、公園に立ち寄った。
ホコリ
「・・・」
ホコリはブランコを直視した。
ホコリ
「そっかー・・
俺っち2年生か・・」
ホコリは尻尾を揺らしながら
ブランコへと足を動かした。
ホコリ
「・・・」
そのまま引き寄せられるかのように
ブランコに乗るホコリ。
ゆっくり、キコキコとブランコの動く音が聞こえる。
ホコリ
「にゃはぁ・・ブランコちっちぇーな」
ホコリは半ば楽しそうにブランコをこぎ始めた。
ホコリ
「俺っちが人間になったのっていつだったかなー・・
あんときはふつーの猫だったからこーしてブランコ漕げなかったし・・
人間になってからはダンナにいつもブランコ押してもらってたっけ・・」
ホコリは小さいころの思い出をぶつぶつと語り始めた。
ホコリ
「気がつきゃ俺っちもだいがくせーか・・
思えばあんときよく勉強する気になったよなー・・
ドルも帰らなくて住んだし、俺っちもいよいよハタチかー・・」
ホコリは少し憂鬱な表情を見せた。
ホコリ
「・・ってΣ
俺っちガラにもねーことぶつぶつ言っちまった;
いつからこんなんなったんだろ;
早く家帰ろ」
ホコリは高いところまでいったブランコから勢いよくジャンプした。
スタッ
思わず新体操のポーズをとってしまった。
「・・・」
ホコリ
「にゃ?」
「・・・」
目の前に首輪をした少年が立っていた。
耳の垂れた子犬のようだ。
ホコリ
「み、見てたのか?」
ホコリは少し赤面した。
「・・・」
少年はただ尻尾を振っている。
「・・・^^」
少年はニコっと笑い、
そのまま走っていってしまった。
ホコリ
「なんだ・・ありゃ」
3月31日、火曜日の昼。
ホコリはドルチェ、フリックルというお馴染みのメンバーで
ファミレスで食事をとっていた。
ホコリ
「なー」
ドルチェ
「ん?」
ホコリ
「ラジオのことなんだけどさー・・」
フリックル
「どうかしたん?」
ホコリ
「これからどーすんだ?
まだ続けるのか?」
ドルチェ
「続けるに決まってるじゃない」
フリックル
「そうそう。
元々不定期でやってんだしな」
ホコリ
「そーか、よかった^^」
ドルチェ
「でも急にどしたのホコリン。
もしかしてラジオ抜けるつもり?」
ホコリ
「そんなわけねーって。
俺っちがいなくなったら
誰が指揮すんだよ」
・・・
フリックル
「お前・・そんな偉かったっけ」
ホコリ
「別にえらくはねーけど」
ドルチェ
「じゃあさっきのは何^^;」
ホコリ
「んー、ノリかな」
二人は呆れた表情でご飯を口に含んだ。
ホコリ
「でもさー、いつも3人でやってるってわけじゃねーし、
思い切って後一人メンバー加えるっつーのはどーだ?」
フリックル
「オレは別に構わねーけど・・」
ドルチェ
「僕も問題ないよ」
ホコリ
「おー、そっか!」
ドルチェ
「問題はないんだけど、
その一人が誰かって話になるよね」
ホコリ
「そーだなー」
フリックル
「あてとかあんの?」
ホコリ
「にゃー。
今んとこは全然」
ドルチェ
「いつもの人たちじゃダメなの?」
ホコリ
「ダメってわけじゃねーけど、
みんな忙しーしなー」
ドルチェ
「本当は僕もリックんも忙しいけどねw」
フリックル
「ま、オレの場合は勉強するか遊ぶか・・どっちかだけど」
ホコリ
「兄ちゃんはともかく
ドルは受験生だもんなー」
ドルチェ
「卒業したら
国へ帰るかこっちで就職か進学するかは
まだ決めてないけどね」
ホコリ
「やだドル。
帰んな」
フリックル
「こらこら、立場を考えろよ」
二人と別れたホコリは国分寺駅から降りると、
家へ帰る途中、再び公園へ立ち寄った。
ホコリ
「・・・」
ホコリはブランコの前に立った。
ホコリ
「ラジオも今年で3年目か・・
あ、俺っちは2年か」
ホコリはぼそっとつぶやきながら
再びブランコに乗り、
キコキコとこぎ始めた。
ホコリ
「そーいやあんとき
どういうわけか俺っちがドルを誘って・・
リック兄ちゃんと3人でラジオはじめて・・
あれ、ブレストにゃは〜って元々何の略だったっけ・・」
ホコリは昨日と同じく
ブランコを高くこぎながらぶつぶつとつぶやいた。
ホコリ
「って、昨日もこんなこと・・」
われにかえったホコリはまたまた昨日と同じように
高いところからピョンと飛び降りた。
スタッ
ホコリはまたまたまた思わず
新体操のポーズをとってしまった。
ホコリ
「Σ」
目の前に昨日の少年が立っていた。
ホコリ
「お、お前昨日の・・」
「・・・」
少年は尻尾を振りながら
パチパチと拍手をした。
ホコリ
「にゃ・・」
ホコリは照れた。
ホコリ
「っていうかお前誰だよ」
ホコリは少年に問いかけた。
「・・・^^」
少年は再びニコっと笑い、
今度は四本足で颯爽と走っていってしまった。
ホコリ
「行っちまった。
って、今・・四足で走んなかったか?」
4月1日、水曜日。
ホコリは高丸と昼食をとっていた。
高丸
「こうしてホコリ君と二人でご飯食べるのも久しぶりだねぇ。
高校以来かな?」
ホコリ
「そーかもな」
高丸
「ん、なんか悪いこと言った?」
ホコリ
「んー、別に」
高丸
「そう。
ちなみに伺いますけど」
ホコリ
「にゃ、なんだ?」
高丸
「大学は楽しい?」
ホコリ
「んー、楽しいぞ。
マテ兄ちゃんもいるし」
高丸
「そうかぁ」
ホコリ
「タカマルはどーだ?」
高丸
「うん、お仕事順調だね。
3月も終わって少し落ち着いたからね〜
残業も少なくなったし」
ホコリ
「また今度二人でゲーセン行こーか」
高丸
「いいよ。
丁度KOFの新作も稼動してるだろうし」
ホコリ
「よっしゃ」
高丸
「でも今日はちょっと無理かな。
この後予定あるし」
ホコリ
「だからまた今度だって」
高丸
「あぁそうだっけ」
ホコリ
「タカマル、
俺っちはいつも真面目なんだぞ」
高丸
「んー前よりは真面目になったかも」
ホコリ
「ひでー」
国分寺駅から降りたホコリは
高丸と別れ、自宅へと向かっていった。
ホコリ
「・・・」
ホコリはまたしても公園に立ち寄ろうとした。
ホコリ
「・・・はっΣ」
ホコリは我にかえった。
ホコリ
「そーいや
俺っち何故かここんとこ毎日
ここのブランコ乗ってたよーな・・」
ホコリはとある視線に気がついた。
ホコリ
「・・・」
ホコリがそーっと振り向くと、
あの少年がじーっと見つめていた。
「・・・」
うわー、またこいつかぁ・・
「今日は乗らないの?」
ホコリ
「にゃ?」
「・・ブランコ」
な、なんだ急に;
ホコリ
「乗ろうと思ったけど
今日はやめた」
「なんだ・・
あのジャンプカッコ良かったのに」
ホコリ
「そ、そーか?
・・・」
よく見ると、
少年の足は犬の脚・・
すなわち逆関節の形であった。
この世界観では、逆関節の人間は珍しいのだ。
ホコリ
「犬脚・・」
「え?」
ホコリ
「あΣ
いやー何でも・・にゃはは^^;」
「お兄さん」
ホコリ
「な、なんだ」
「お兄さん、オレとおんなじ匂いがするね」
ホコリ
「にゃΣ
な・・なんのことだ?」
「オレ、佐久間剛太郎!
ゴーって呼んで!」
ゴーと名乗った少年は
ホコリに手を差し伸べた。
ホコリ
「・・・あぁ、よろしくな」
ホコリとゴーは握手を交わした。
どういうわけか仲良くなった二人であった。
ゴーは尻尾を振って喜んだ。
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