VOL.53
「カカル先生の休日」







7月10日。
まだ関東圏は梅雨明けしていない。
空にはどんよりとした雲が漂い、
雨は降っていないものの、湿気が強く
とても蒸し暑い。

今日は金曜日なので学校もある。
特に毛深い人間(この世界の獣人はそこでいう人間である)は
毛内に汗が溜まり、それをふき取るためのタオルが欠かせない。

カカル
「うー」


青と白の寒色で構成された毛並み。
可愛らしい顔つきにメガネをかけている。
彼、カカルは幻想学園に教員実習生としてお世話になっている。
童顔にもかかわらず年齢は21である。
生徒の間ではサバ読んでんじゃねぇかという噂も当然ある。

そんなスーツ姿のカカルは唸っていた。

アルヴァン
「カカル」


カカル
「あ、センパイ」


紅色の竜顔の男が話しかけてきた。
彼の名はアルヴァン・ランクス。
ここ、幻想学園に20年以上勤めているベテラン教師だ。
太い尻尾を引きずらせながら、カカルの顔を見て
アルヴァンは呆れた表情を浮かべた。

アルヴァン
「その調子だと
すっかり職場にも慣れてきたみたいだな」


カカル
「そうですか・・?」


アルヴァン
「お前の顔を見りゃあな」


3時のおやつをお預けされて
絶望感に浸っているような顔だ。

カカル
「嬉しいのか悲しいのか分からないですね」


アルヴァン
「んでどうした?
夏バテでもしたのか?」


カカル
「違いますよ」


アルヴァン
「ん? そんじゃなんだよ」


カカル
「飢えてるんですよ・・」


アルヴァン
「は、飢えてる?」


耳が下がった状態で
カカルは話した。

カカル
「アルコールにですよ・・センパイ」


アルヴァン
「アルコール・・」


アルヴァンはまたか・・と言わんばかりに
右手を顔に当て、ハァ・・とため息をついた。

アルヴァン
「なぁ、お前昼飯んときに
近くの白木屋行ってるだろ」


カカルはギクッっとした表情を浮かべ、
顔の毛をブワっと逆立てた。

カカル
「・・なんで知ってるんですか」


アルヴァン
「俺が直接見てるからに決まってんだろ」


カカル
「あら」


カカルはバレてるのにも関わらず、
グダグダに誤魔化してしまう。

アルヴァンは二度目のため息をつくと
そのまま話を続けていく。

アルヴァン
「にしてもあれは豪快な飲みっぷりだったな・・
あまりに美味そうに飲み干してるから
俺も危うく手ぇ出すとこだったぜ」


カカル
「いやいや、夏の暑い日に飲むビールは
格別ですからね(笑」


アルヴァン
「そりゃそうだよ・・そりゃそうだけどな・・」


カカル
「え?」


三度目のため息をつくと、アルヴァンは答えた。

アルヴァン
「俺や他の先生だって我慢してるっつーのに
お前は昼間っから飲酒・・
少しは道徳ってものを学んだらどうなんだ、教師なんだから」


カカル
「うぐ」


ベテラン教師のアルヴァンが言うと説得力も大きい。

カカルは逆立った毛を潜め
ガクっと首を下げた。

アルヴァン
「分かりやすいヤツだな・・」


カカル
「アルコールは私のエネルギー源ですよ。
それが奪われたら私はどうやって生きていけば」


アルヴァン
「そういう問題じゃねぇ」


カカル
「うぅ、センパイ」


アルヴァン
「まったく呆れたヤツだな・・
言動こそ真面目だが」


カカル
「それはしっかりわきまえてるつもりですよ」


アルヴァン
「わきまえてる・・か。
素のお前を思い返すと考えられんな」


カカル
「ありがとうございます」


アルヴァン
「や、別に褒めてなんか・・」


カカル
「ところでセンパイ、明日土曜日ですよね。
よかったら飲みに行きません?」


アルヴァン
「はぁ?」


突然のお誘いにアルヴァンは四度目のため息をついた。

アルヴァン
「お前さっきの話忘れて・・」


そのとき、アルヴァンの脳内でピキーンと音を立てた。

アルヴァン
「仕方ねぇな。
そんなに飲みたいんだったら
明日の夜に行くか。
俺のオゴリで」


その言葉を聞いた瞬間
カカルの瞳は輝き、耳の先端がピクリと反応した。

カカル
「え、いいんですか?
さっき注意してくださったのにいきなり」


アルヴァン
「あぁ、ただし今日は夜まで酒は控えろよ。
それから明日頼みてぇことがあるんだ」


カカル
「いいですよ、お酒のためでもあるし
センパイのためでもあるんですから!」


アルヴァンは五度目のため息をついた。
もはや本人もカウントはしていなかった。

アルヴァン
「普通先輩が最初にくるんだが・・まぁいい。
そんで頼みってのはな・・」










7月11日、土曜日。
この日は梅雨明けしていないのにもかかわらず
昨日のどんよりした曇り空が嘘かのように晴れていた。
それどころか雲のかかり具合がとても綺麗で、
これぞ夏だ!っていうくらい象徴させるような天気だ。

時刻は9時を回っていた。

マテライト
「いってぇ」


左手で右のわき腹を押さえながら、
白髪のツンツンヘアーをした
一人の若者が吉祥寺駅から出てきた。

彼の名はマテライト・イエローハット。
傘舞大学の学生で、同じ大学に通うホコリより1つ上の学年だ。
ギラっとした白目のない瞳に眼鏡というのが意外と似合う。
ちなみに今日の服装は袖と襟が黒く、真っ白な半そでシャツと
風通しのよさそうなダークグリーンの長ズボンだ。

マテライト
「ったくあのバカ・・加減てもんを知らねぇのかよ・・」


約30分前。
彼が安らかな眠りについていたとき。
悲劇は起こった。

兄貴、起きてよ、兄貴〜

眠っている彼を揺さぶる一人の女性。
妹、エディである。

むにゃむにゃ・・

朝飯できてんだけど〜。

ぐぅ・・

起きろ、バカ兄貴!

ドカッ。

グホァ(痛

という感じで兄は目が覚めた。
彼にとってはいつものことなのだが、
妹が脚を鍛えているのか、
いつもより2倍くらいは痛かったらしい。


30分後。
ローキックされた右のわき腹からは
まだ悲鳴があがっている。

マテライト
「にしても気分で吉祥寺に来たのはいいけど
これからどうすっかなぁ。
寄りたいとこもねぇし・・」


ぶつぶつ独り言をつぶやいていたマテライト。

マテライト
「ん?」


彼が前に目を向けると、”こちらが最後尾となります”という
札を持った20代くらいの男性の姿があった。

マテライト
「最後尾・・」


そこから目でたどっていくと、
肉眼で確認できないほどの行列の姿ができていた。

へぇ、新しい店でもやんのかな」

せっかくだし、という感じで興味を持ったマテライトは
その札を持った人物からなぞるように歩いていった。



歩くこと10分。

マテライト
「な、長い・・」


一度は暇だから並んでみようと考えたマテライトだったが。
あまりに長い行列にその気持ちは既に失われていた。

マテライト
「にしてもどんだけ長いんだこりゃ。
よっぽど待ちわびてた店なのか」


更に歩くこと3分。
突然マテライトの耳に聞き覚えのある
ガラガラ声が伝わる。

ホコリ
「兄ちゃーん!おーいマテ兄ちゃーん」


マテライト
「この声・・」


ホコリ
「ここ!ここ!」


ギリギリ肉眼で確認できる先に
バタバタと手を振るホコリの姿があった。

マテライトは駆け足でホコリの元へ近づいていった。

マテライト
「ホコリ」


ホコリ
「にゃはー♪」


おなじみの挨拶を交わしたホコリの表情は
少し嬉しそうだった。

ホコリ
「きぐーだな!」


マテライト
「あぁ、今日暇だからたまたまな」


常にハイテンションのホコリンと
常にローテンションのマテライトの会話だ。

マテライト
「ところでここにいるってことは」


ホコリ
「おー、二人でずっと並んでたんだぜ!」


マテライト
「そりゃご苦労なことで・・
ん?」


二人・・

マテライト
「二人?」


ホコリ
「うん」


マテライト
「・・・」


マテライトは奥の方に目を向けた。
そこにはウン○座りで首を下に向けてる
一人の青白い男がいた。

マテライト
「・・・?」


奥の男に指を差すマテライト。

ホコリ
「うん」


カカル
「ん?」


ダークグリーンのノースリーブを着た
青白い男、カカルは気がついた。

カカル
「んぁ・・」


カカルは重い腰を上げて立ち上がった。

カカル
「ふわぁ・・気がついたら寝ちゃってたよ」


ホコリ
「おー、おはよう」


あの体勢でずっと寝てたのかよ!
二人の意見は一致した。

カカルはふわぁぁぁと両手を大きく伸ばし、
大きく息を吸い込んだ。

そしてすぐにマテライトの方に目を向ける。

カカル
「んにゃ、知り合い?」


ホコリ
「おー、俺っちの大学のマテ兄ちゃんだぜ」


カカル
「兄ちゃんってことは先輩さんか〜
ボクカカルっす、ヨロシク〜」


マテライト
「あ、あぁよろしく」


スッと手を差し伸べられ、
引き寄せられるかのように
マテライトはカカルと握手を交わした。

メガネ越しの童顔から来るニコッとした笑顔は
マテライトには少々刺激が強かった。

手を離し、カカルの笑顔から目を反らしたマテライトは
ホコリに話しかけた。

マテライト
「んで、お二人さんは何待ちなわけ?」


ホコリ
「なー、俺っちたちの後ろの列、どんくらいできてた?」


マテライト
「え?
・・確か駅から出て曲がり角曲がったら
もうできてたような」


ホコリ
「あーやっぱそーか。
すげーな、ゆーめいな新作はやっぱ違うな!」


カカル
「どんくらい違うのか
ボクにはさっぱりわかんないよ」


マテライト
「だから、二人は何目当てなんだって」


ホコリ
「ドラクエ」


マテライト
「は、ドラクエ・・?」


ホコリ
「そう、今日はドラクエ\の発売日だからな」


マテライト
「・・・」


何も言わずに更に奥に続いている列を
たどっていくマテライト。

歩くこと5分。
ようやく列は途絶えた。
その先にあったのは一軒のゲームショップ。
入り口はまだシャッターが閉まっていたが、
”ドラゴンクエスト\”の看板が
堂々と建っていた。
その看板には”7月11日発売”と書かれていた。
7月11日、すなわち今日である。

マテライト
「なるほど・・ってかドラクエってまだ続いてたんだ」


興味なさそうにつぶやくと
マテライトは列を再びたどっていき、
ホコリとカカルのいるところまで戻っていった。

遠くから戻ってくるマテライトに気がついたホコリは
再び手を振る。

マテライトはわーってるって、という顔をした。

ホコリ
「おーおかえり兄ちゃん」


マテライト
「なぁ、二人とも
ずーっとここに立ちっぱなしだったんか」


ホコリ
「うん、7時からずっと並んでた」


マテライト
「7時・・」


ホコリ
「7時でこれくらいの位置なら全然だいじょーぶ!
すげーヤツなんて前の日から並んでるらしーからな・・
いくら俺っちでもそこまではできねーや;」


マテライト
「そういう話は聞いたことあるけどな。
そんであんたもあれ目当てってわけか」


カカル
「全然」


マテライト
「は?」


まるで拷問を受けているかのような気持ちで
カカルは答えた。

もやもやもやもや(カカルの回想)

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アルヴァン
「仕方ねぇな。
そんなに飲みたいんだったら
明日の夜に行くか。
俺のオゴリで」


カカル
「え、いいんですか?
さっき注意してくださったのにいきなり」


アルヴァン
「あぁ、ただし今日は夜まで酒は控えろよ。
それから明日頼みてぇことがあるんだ」


カカル
「いいですよ、お酒のためでもあるし
センパイのためでもあるんですから!」


アルヴァン
「普通先輩が最初にくるんだが・・まぁいい。
そんで頼みってのはな・・」


カカル
「いいですよ、私で良ければどんと!」


胸にどんと手を当てる。

アルヴァン
「お前、ドラゴンクエストって知ってるか?」


カカル
「あぁ、ドラクエのことですよね。
名前だけなら・・
私は興味ないんですけどね。
そもそもTVゲームなんてやらないし・・」


アルヴァン
「へぇ、お前顔の割に相当真面目なんだな」


カカル
「それって教師の言う言葉じゃないですよ」


カカルは軽く苦笑いをした。
それに答え、アルヴァンはがははと口をあけて笑う。

アルヴァン
「んでだ、明日は新作のドラクエ\が発売する日だから
朝イチで並ぼうかと思ってたんだが・・」


カカル
「が?」


が?の後、
アルヴァンは悔しそうに話す。

アルヴァン
「ついさっき明日の午前中の仕事が入っちまってな。
よりにもよって前日に・・ぐぅ」


カカル
「ありゃ・・それは災難ですね^^;」


アルヴァン
「だから明日の件、お前に任せようと思ってるんだが」


カカル
「なるほど、それなら・・」


カカルは途中で声を止めた。

数秒の沈黙の後、再び声を発した。
相当のローテンションの声だ。

カカル
「あの・・要するに
明日の早朝から並んで買ってきてくれってことですよね。

早い話、お使いですよね」


アルヴァン
「あぁ、お使いだ」


カカル
「・・・」


カカルは露骨に嫌な顔をした。

アルヴァン
「ほんっっとうに分かりやすいヤツだな」


アルヴァンはため息をついた。
(カウントすると6回目になる)

アルヴァン
「別に俺は無理に頼もうとは思わないけどよ、
普通は上司の頼みは素直に聞くもんだぜ。
普通はな。

それにこれからもそうやって素直すぎて生きていったら
どうなるかわかったもんじゃねぇぞ」


カカル
「そ、そうですか・・」


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やもやもやもやも(カカルの回想終わり)

カカル
「と、いうわけで渋々了承したってわけっす」


マテライト
「はぁん・・」


正直、マテライトにとっては
どうでもよかったようだ。
強いて言えば二人の強い個性に
少々呆れていた。

ホコリ
「にゃー・・そーいや俺っち喉渇いてきたな・・
なー、俺っちジュース買ってきていーか?」


カカル
「全然いいよ。
・・そうだ、ついでにボクのも買ってきてよ」


ホコリ
「酒以外ならなんでもいーぞ」


カカル
「冷たいなぁ・・ビールは冷たい方がいいけど・・
わかったよ」


ホコリ
「あ、兄ちゃんちょっと並んでてくれよな」


マテライト
「へ?ちょ・・」


ホコリ
「そんじゃいってくるぜ!」


ホコリは颯爽とコンビニへ向かっていった。
マテライトは口を開ける暇もなかった。

マテライト
「・・・」


気温は昼に近づくにつれ
徐々に上がってきている。
タオルを片手に汗をふき取る人も
増えてきた。

カカル
「いやぁ、君も災難っすね」


マテライト
「まったくだぜ・・」


カカル
「そういや君って年いくつなんすか?」


マテライト
「え? なんだよ急に」


カカル
「さすがにずーっとこうしてると退屈で^^;
だからちょっとの間でいいから
話してくれると助かるっすよ」


はぁ・・とため息をつきながら
マテライトは渋々了承した。

マテライト
「仕方ねぇな・・
俺は22だよ」


カカル
「へぇ、近いっすね。
ボクは来年の2月で22っす」


マテライト
「え、ってことは同い年かよ」


カカル
「っていうと?」


マテライト
「いや・・俺先月で22になったばっかだから」


カカル
「そうなんすか!?
いやぁ、同い年なんてラッキーっすね」


マテライト
「ら、ラッキーか?」


カカル
「なんか、年同じだと気が楽になるじゃないっすか♪」


マテライト
「そうか・・?」


いまいちわからないマテライトに
カカルは話を続けた。

カカル
「ボクも教師の卵として3ヶ月になるんすけどね、
大学やバイトと掛け持ちすると大変っす・・」


マテライト
「へぇ・・って
お前先生なの?」


カカル
「そうっすよ。
ただいま絶賛教員実習生っす☆」


エッヘンといわんばかりの表情を見せた。
カカルが見せるその表情にマテライトは戸惑った。

マテライト
「そ、そうなんだ」


カカル
「そういえば、マテライト君は
卒業したら何になるんすか?」


マテライト
「それは・・」


まだ決めてなかった、という顔をした。

カカル
「何にしても、将来は自分で決めることっすからね〜
悔いのないようにしたいものっすね」


マテライト
「あ、あぁ」


カカル
「ボクだって教師になるために
ここにやって来たんすからね。
前にいたとこじゃ友達とかいなかったけど
ここに来てから個性的な人と出会えたから
本当によかったっす・・」


マテライト
「そりゃそうだろうな」


カカル
「前は本当に辛かったっすからねぇ。
路地をさまよい、食べ物を求めるのに必死だったあのとき・・」


マテライト
「は・・?」


すでにマテライトはちんぷんかんぷんになっていた。

カカル
「っと、夏だけど変な意味でブルーな話になっちゃったすね^^;
今のは忘れてほしいっすね」


マテライト
「あぁ・・」


店員
「大変お待たせしました〜
営業時間になりましたので
ドラクエ\の販売を開始します〜」


人々
「おーーー!!」

店のシャッターがガラガラと開くと、
一人の店員が大声で話す。

すると並んでいた人が次々に拍手喝采となり、
それはまるで導火線に火がついたかのように
後ろの列へどんどん続いていった。

マテライト
「な、なんだ」


次々と拍手していく人々に圧倒された
マテライトとカカルはつられるように
拍手していった。

マテライト
「ど、どうなってんだ」


カカル
「さぁ」


すると、長い列が徐々に少しずつ動き出していった。

マテライト
「え・・なんだこれ」


カカル
「ちょっと待って」


カカルは腕時計を確認した。

カカル
「10時回ってる。
きっと店が開いたんだな」


マテライト
「ってちょっと待て;
俺は別に欲しくねぇぞ」


カカル
「ボクも頼まれただけっすからね^^;」


マテライト
「そういうことじゃなくて・・」


そういいつつも
徐々に動く列に
マテライトも動かざるを得なかった。





10分後。

ホコリ
「おー、いつの間にか動いてたんだな!」


マテライト
「動いてたんだな、じゃねーよ;
遅いっつの」


ホコリ
「にゃはは、コンビニちょっと遠かったんだー」


マテライト
「早く変わってくれ;
このままじゃ俺が店に入っちまう」


ホコリ
「にゃはは、ごめんな!」


そういってホコリとマテライトは立ち位置を交換した。

マテライトはやれやれという表情を浮かべた。



3分後。

ホコリ
「にゃは〜♪」


嬉しそうな顔で
ホコリが店から出てきた。

ホコリ
「やっと買えたぜ、ドラクエ!」


ドラクエ\の入ったビニール袋を抱えたホコリ。

マテライト
「よかったな・・」


マテライトは再びやれやれとため息をついた。

カカル
「でもこんなことなら
待つ必要なかったんじゃない・・?」


ホコリ
「ダメだよ、1人1つだっていう決まりなんだから」


カカル
「あぁ、それでセンパイはボクに」


カカルもビニール袋を抱え
開放感に満ちた表情を見せた。

ホコリ
「でも並んだ甲斐があったな〜
これでうち帰ってゆっくりできそーだ」


マテライト
「そりゃよかったな。
そんじゃ俺は用もないしそろそろ」


カカル
「あ、ちょっと待って」


カカルが呼び止める。

マテライト
「ん?」


カカル
「今日は付き合ってくれてありがとう。
短い間だったけど話ができてよかったよ」


カカルは手を差し伸べた。

マテライト
「あ、あぁ」


マテライトは引き寄せられるかのように
再びカカルと握手を交わしていった。

カカル
「ね、今夜ボクセンパイとお酒飲みに行くんだ。
よかったらマテライト君も一緒においでよ」


マテライト
「や、俺は別に」


カカル
「大丈夫大丈夫、
センパイが全部おごってくれるから♪」


ホコリ
「ほんとーか!
そんじゃ俺っちも行くぜ!」


カカル
「いいよいいよ、どんどんおいで〜
でもホコリンは未成年だからお酒はダメだからね」


ホコリ
「わかってるって!」


マテライト
「やれやれ・・」


なんだかんだでツンツンしていたマテライトも
少し表情が砕けてきた。
目つきは鋭かったが、少し安心してきたようだ。












翌日の日曜日。

日が昇って間もない時間。

カカル
「・・・」


カカルは気持ちよさそうに眠っていた。
彼の側にはノースリーブとズボンが
バサっと脱ぎ捨てられていて、
その上にはメガネがポンと置いてあった。

カカル
「きゅぅぅぅ〜」


鳴き声をあげ、カカルは寝返りを打った。
そこで眠っていたのは一人の人間ではなく
一匹の青白い小さな獣であった。


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