VOL.55
「決意」







12月のある日。


雲一つない青い空。


「・・・」


一人のイーブイが、
時計台の前で
スマートフォンを眺めていた。


「緊張するなぁ・・」


「チッポちゃん」


「ひゃっ」


一人のサンダースから話しかけれたチッポは、
スマホ片手にあたふたさせた。


「こ、こんにちは・・マテライトさん」


「よう、悪ぃ・・遅くなって」


「ううん、良いんです・・
ちょっとくらいなら・・」



「あぁ、誘ってくれてありがとう」


「そんな・・
私のために時間使ってくれてありがとうございます」



「気にしなくていいよ。

とりあえず・・ここ寒いから
とっとと店行こうか」



「・・はい」


チッポは顔を赤くし、
緊張しながら歩いた。




喫茶店の中に入った
チッポとマテライト。


「コーヒーとレモンケーキ。
あ、コーヒーはブラックで」



「・・・私もコーヒーで」


「かしこまりました」


注文を受けた店員が離れていった。


「へ、変ですよね。
食事に誘ったのに・・コーヒーしか頼まないなんて」



「気にすることねぇって。
今3時過ぎたばっかなんだし」



「そ、そうですね・・」


チッポは指先をモジモジさせた」


「ど、どうしたんだよ。
急にかしこまって」



「・・・」


「お先にコーヒー失礼しまーす」


店員がテーブルにコーヒーカップを二つ置いた。


「ま、マテライトさんは・・
ブラックしか飲まないんですか?」



「そうでもねぇかな。
まあ俺はあんまり甘くない方が良いけど」



「そうなんですか・・」


マテライトはブラックコーヒーをすすった。


チッポは相変わらず指先をモジモジさせていた。


「・・・はーー・・ふぅ・・」


チッポはその場で深呼吸をした。


「だ、大丈夫か?
なんかきつそうだけどよ」



「だ、大丈夫です・・
今一瞬・・心の整理してただけですから」



「心の整理?」


チッポは勇気を振り絞った。


「あの・・単刀直入に
言いたいことがあって、今日お誘いしました」



「そうなのか・・
話ってなんだい?」



「マテライトさん、
私のお姉ちゃんのことどう思ってますか」



「ぶっ」


マテライトはすすろうとしていたコーヒーに
大きく息を吹いてしまった。


危うくコーヒーをこぼすところであった。


「きゅ、急にどうしたんだよ・・
え、チッポの姉ちゃん?」



「はい、フロルお姉ちゃんです」


「どう思ってるって・・」


「私・・知ってるんです。
マテライトさんが、うちのお姉ちゃんと凄く仲が良いの


一緒に遊んだり、お酒飲んだり・・」



「ま、まあそれなりに回数は重ねてるかな」


「それで、マテライトさん・・
フロルお姉ちゃんのこと一体どう思ってるのか
気になって仕方なくて・・
だから妹として・・聞いてみたくなって・・」


チッポは窓の外に目をそらした」


「・・ごめんなさい」


「良いよ、別に」


マテライトも窓の外に目をやった。


「フロル・・か」


マテライトは少し沈黙した後、
そっと口を開いた。


「ぶっちゃけ・・気はあるよ。
初めて会ったときはそうでもなかったけど、
一緒に遊んだり酒飲んだりしていくうちに、
段々友達とは違う別の意味で気になっちまってよ」



「そうですか」


「これもぶっちゃけるけど・・
惚れてんだよな、多分。
あいつのこと」



「そうですか」


「俺より年下なのに
俺より背が高い・・・最初はびびったよ。
あんなでけぇ女見たの初めてだったから。

けど、あの優しい目にちらつく歯・・
見ていたら段々惹かれちまってさ。

時々だけど、考えたら眠れなくなるときだってあるよ。

こんな気持ち初めてだぜ・・って何度も思ったね」



「そうですか」


「って、なんか悪いな・・
気付いたらベラベラ喋りまくってた」



「いえ、ありがとうございます。
マテライトさんが正直に言ってくれたから、
私も思い切って正直に言えます」



「え、正直って・・?」


「・・・」


チッポは、溜めていた唾をゴクリと飲み干すと、
そっと口を開いた。


「好きです。

私・・マテライトさんが大好きです」



「え・・チッポちゃん」


「初めて会ったときからずっと・・気になってました。

だけど、わかってたんです。
私なんかじゃ、マテライトさんと釣り合わないって。

最初、マテライトさんとお姉ちゃんが親しくなってるの

を見て、
凄いショックでした。
辛かったです。
辛すぎて眠れない日も多かったです。

だけど・・
見ているうちに段々お似合いの二人だと思いました。

あんなに喜んでる顔のお姉ちゃんを見たのは初めてでし

た」



「チッポちゃん・・」


「だから私、決めたんです。

妹として・・
いつまでも二人の事を応援します。

これからも、うちのお姉ちゃんのこと
よろしくお願いします!」



チッポは思い切り目を瞑った。


「・・・悪かった。
君の気持ちも知らないで
姉ちゃんと好き勝手なことしちまって」



「やめてください。
そんなこと言われたら、
思い切って告白した私が惨めじゃないですか。

それに、私は好きって言いたかったんです。
しかも過去形です。
大好きだった人に直接こんなこと言うのも変かもしれな

いけど・・」



「いや、はっきり言ってくれてありがとう。

俺もこういう話苦手だからさ・・
どうしようかと思ってたけど」



「マテライトさん・・」


「けど、君のおかげで
決心したよ。

ありがとう」



「い、いえ・・」


チッポは再び目をそらしてモジモジさせた。


「そうだな・・
俺も心を決めっかな。
もう27だし」





その日の夜。
マテライトはフロルに電話をかけた。


「もしもし・・」


『はい、もしもし』


「あぁ、フロルか?
俺だよ」



『あぁ、その声はマテ君』


「悪ぃな、いきなり電話かけちまって」


『いいのよ、丁度暇してたから。
それでどうしたの』


「・・・」


『マテ君?』


「今日、あんたんとこの妹と飯食ってきた」


『チッポと・・?』


「あぁ」


『珍しいわね。
どうしたの』


「・・・告白された」


『え・・』


「好きって言ってきたよあの子。
俺に直接面向かって」



『そう・・』


「だけどフラれた」


『振られたって』


「ぶっちゃけ俺、
どうしたらいいのかわからなくてさ・・
とにかく話だけ聞いてすぐ終わったって感じでさ」



『そういえば、今日帰ったら
チッポがなんとなくテンション低かったから心配したん

だけど、
そういうことだったのね』


「あぁ、
あの子に悪いことしちまったかな」



『ううん、それは違うわ』


「え」


『あの子・・昔っから引っ込み思案なのよ。
背が低いから、背の高い子を下から見上げて
色々と思いつめたりしてね。

そんなチッポが、そんな真似をするなんて・・』


「後、こうも言ってたよ。

俺とあんたのこと応援したいって」



『・・そう』


「俺・・どうしたらいいのかわからなくて」


『そう・・チッポが』


「だけど・・
あの子のおかげで
俺・・いろいろと決心したんだ。

・・正直、
俺は昔から根暗だし寝るのが好きだし
それに1回留年してるし・・

けどあんたは俺のこと毎回酒に誘ってくれたりして・・
今となっちゃ、一緒に過ごしている時間が楽しくて仕方

ないんだ」



『私も・・気になるからいつも誘ったりしちゃって』


「・・そうか。

じゃあ・・俺からはっきり言うよ」



『うん』


「はぁ・・・ふぅ」


マテライトは深呼吸をした。


「・・・好きです。

結婚してください」



『・・・』


「びくびく」


『ずっと待ってました・・その言葉』


「フロル・・」


『なんて、お互い敬語なんて似合わないわよね。
もっとフランクにいきましょ』


「あ、あぁ」


『けど、これだけは言わせて・・』


「え・・」


『・・私も・・ずっと一緒にいたいです。
お慕い・・申し上げます』


フロルは、電話越しに涙を流した。





一方。


「・・・」


チッポはスマートフォンを眺めながら
立っていた。


「チッポちゃ〜ん」


「あ」


遠くからキサトシが走ってきた。


「はぁはぁ・・ごめん、
電車遅れちゃって」



「ううん、ちょっとくらい気にしないですよ」


「や、ホントごめん。
いきなりご飯誘ってくれたもんだから
オレも急いで支度してきちゃってさ」



「私の方こそごめんなさい。
でも来てくれてありがとう」



「ううん、気にしないでよ」


「・・・あの」


「え?」


「・・・
こんな小心者の私だけど・・
これからも一緒にいても・・良いですか・・」



「ど、どうしたの急に改まって。

い・・いきなりそんなこと言われたら・・
オレ・・困っちゃうじゃんか」



「そ、そうですよね」


「けど・・オレも出来れば
ずっと一緒にいたいな。
こんなオレのこと気にかけてくれた子は初めてだからさ

・・
年の差はあるけど・・
よろしく」



「・・こちらこそ」


円らな瞳が向かい合って
互いに顔を赤らめた。






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