現実とファンタジー
「第1話」
ここは僕らの知らない世界・・
とある国に、立派な中世風の城が
そびえ立っていた。
リグレイス城と呼ばれるこの城の中に、
二人の狼はいた。
「・・・ロウ、誰もいないか?」
後ろ髪を紐で結んだ
金髪の狼が問いかけた。
同じく金髪で、髪の短い狼が
辺りをキョロキョロと見回すと、
長髪の狼に返事を返した。
「うん、いないよ」
「おし、行くぜ」
「なんかワクワクするね、ロンズ」
「あぁ。
今日はレンもいないし、
格好のチャンスだぜ」
長髪の狼、ロンズは探検気分に酔いしれていた。
「でも・・やっぱりちょっと不安^^;」
短髪の狼、ロウは逆に緊張感が身体全体を包んでいた。
「何今更言ってんだよ。
レンがいないチャンスなんだぜ」
「別にレンはそんなに怖い人じゃないでしょ?」
「そうだけどさ・・
でもどういうわけかあの地下室には入れてくんねぇし。
俺らだってこの城の人間なんだから
権利あるだろう、な?」
その言葉にロウは小さな声で答えた。
「ロンズはあるかもしれないけど・・
僕は・・」
「その先は言うんじゃねぇ」
ロンズが強い眼力を見せた。
「ロンズ・・」
「何度も言ってるだろ?
王位とかそういうのは関係ねぇって。
俺は俺、ロウはロウだ」
「そ、そうだよね」
「仮にレンにバレたとしてもだな、
俺一人で罰を受けてやるから」
「ありがとう・・ロンズ」
ロウに笑顔が戻った。
「それにしてもさ」
「ん?」
「ロンズって、レンにいつも殴られてるものね」
昔を思い出して、ロウはクスクスと笑った。
「まぁ俺は慣れてるからな」
ロンズはふふんと鼻で笑った。
「そこは笑うところじゃないと思うけど」
「だったらお前も笑うなよ」
「はーい」
話は収まったようだ。
「でも・・マジで俺はロウが無事ならそれでいいんだ」
「何か違う気もするけど・・とにかくありがとうね」
「お、おぅ」
ロウのささやかな笑みに
ロンズは耳を動かして、
やや照れた表情を見せた。
「さて・・ここからは真剣だ。
この先には何があるかマジでわからねぇしな」
「うん」
二人は辺りに気配がないのを確認すると、
そのまま奥へと進んだ。
「父さんも母さんも死ぬまで俺に教えてくれなかった
この先・・何があるんだろう」
ロンズは少し苦い顔をした。
当時のことを思い出していたのだろうか。
「おっと、とりあえず昔の話はおいとくか」
「う、うん」
道が段々暗くなると、
ロンズは持っていたランタンに火をつけた。
火の明かりが辺りを灯す。
「いよいよか・・
この先には武器があるのか宝があるのか・・」
すぐさまロウがツッコミを入れた。
「ロンズ、それ・・鬼が出るか蛇が出るか、じゃない?」
ロンズはしまった!とばかりに顔を赤くした。
そしてすぐに言い訳した。
「わ、分かってるよ。
分かってて例えたんだぜ。
こんな立派な城だ。
本当にすげぇ武器とか宝もんがあるかもしれねぇだろ」
「まぁね」
ロウは誤魔化されたふりをして
クスクスと微笑した。
お喋りをしているうちに、二人は奥にあった階段を
ゆっくりと降りていった。
「うぅぅ」
ロウは全身の毛を逆立て、
軽く身震いをした。
「だ、大丈夫か?」
ロンズはロウの身震いにすぐに気づき、
心配をかけた。
「だ、大丈夫。
やっぱりこういうのって初めてだから
緊張感丸出しって感じかな」
「そうだな・・さすがの俺も
こればっかりはちょっとドキドキするぜ」
「でも大丈夫、僕一人じゃないから」
「あぁ、そりゃ俺も同じだ」
互いの絆を確認しあうと、
再び足を動かし始めた。
そして、ロウの口も動いた。
「ロンズ・・・」
ロウの小さな声に、ロンズが答えた。
「なんだ?」
ロウは尻尾をゆっくりと揺らしながら問いかけた。
「もし・・何かが起こっても・・
僕はずっと君といっしょだからね」
「あぁ・・何があってもな」
「ロンズ」
「ん?」
ロウは目の前を指差した。
ロンズが視線を向けると、
そこには謎の扉があった。
ランタンから照らされる光によって、
その扉のまわりには多くの埃がまいちっていた。
「いよいよか・・」
「うん」
二人は身構えながら、
ロンズがそっと扉を開いていった。
扉はキィ・・という音を立てて、
ちょっとずつ開いていった。
「いくぞ」
「うん」
二人は恐る恐る足を動かし、
扉の奥へと入っていった。
「・・・」
「・・・」
その部屋の中はがらんどうで、
周りには先へ進める道などはなかった。
「何も・・ないね」
「うそだろ・・?」
ロンズはやや混乱気味に
辺りを見回した。
しかし、やはり道は二人が通った道しかなかった。
「なんだよぉ・・
俺ずっと胸を膨らませていたってのに」
ロンズは耳を垂れ下げ、ペタリと座り込んで落胆した。
しかし、そんなロンズを見て
ロウはすぐに答えた。
「わからないよ」
「なんでだよぉ」
ロンズは棒読みだった。
「もしかしたら、隠し階段があるかもしれないじゃん」
「あ」
隠し!
その言葉にすぐに反応したロンズは
耳を垂れ上げ、スクっと立ち上がった。
彼の尻尾もピーンと立っている。
「だっはっは・・何で気づかなかったんだろう」
ロンズは一本食わされたーとばかりに
後ろ髪をわしゃわしゃとかいた。
ロウはクスクス笑うと、
部屋の奥の角まで進んでいった。
「そうだよな、こんな古くからありそうな城だ。
隠し階段のひとつやふたつ・・」
・・・
「ロウ?」
ロンズは後ろを振り返った。
・・・
ロウの姿はどこにも見当たらなかった。
「え、ちょ・・ロウ・・」
ロンズは何度もロウの名前を言った。
しかし、返事は返ってこなかった。
「ちょっと待てよ・・
隠し階段見つけたからって一人で行くなよ・・」
ロンズは不安になったまま、
ロウのいた部屋の奥の角へ進んでいった。
しかし、隠し階段のかの字も見当たらなかった。
「!!」
ロンズは何か違和感に気づいた。
感じたことのない空気。
それに対してロンズは全身の体毛を一気に逆立てた。
「なんだよ・・これ・・体が重い・・」
ロンズは崩れるようにしゃがみこみ、
汗をたらしながら、重く息を吐いた。
身体のだるさに耐え切れなくなり、
ロンズはついにバタリと倒れこんでしまった。
「ろ・・ロウ・・」
ロンズはかすれた声でロウの名を口にした。
・・・
何もない部屋。
そこに二人の姿はなかった。
あったのは、まだ明かりの灯されている
ランタンだけであった。
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