現実とファンタジー
「第2話」







「おわったぁぁ!!」


部屋から全部吐き出したかのような叫び声が聞こえた。


その叫び声を聞いた一人のライオンが
慌ててその部屋のドアを開けた。


「わ」


ガチャン!と開いたドアに
白いフェンリルは驚いた。


「ど、どうしたの」


「どうしたのって・・兄貴こそどうしたの;
大声出しちゃって」



「あ、いや・・
受験勉強が終わったーーって思ってついねw」



「なんだよ・・驚かせやがって」


ライオンのレオは首を下に向け、ため息をついた。


「でも今回は特別なんだ。
受験を直前に控えた模擬勉強だから」



「まぁね。
オレもその大学受けるし」



「だろ〜?
だからレオもしっかり勉強しなきゃダメだぞ」



「わかったよ。
・・にしても気がついたらもう受験ねぇ」



「受験終わらせて早く遊びたい」


フェンリルのドルチェは
素っ気無い顔で言いたいことをブワっと言い放った。


「そういや、兄貴は
勉強のためにカラオケ我慢してたんだっけ」



「うん、いつもは週に2,3回なんだけど
頑張って月に2、3回にとどめたよ」



行き過ぎじゃねぇか・・という言葉が
レオののど元あたりまで出かかった。


「さて・・」


「ん?」


「丁度受験勉強も終わったことだし、
気晴らしに一緒に散歩行かない?」



「あ、あぁ。
兄貴となら大歓迎だけど」



よーし!と言わんばかりに
ドルチェはよっと椅子から立ち上がった。


「それじゃあ・・う!」


「兄貴?」


「ぐが・・が・・」


ドルチェは突然のど元と手で押さえ、
激しくもがき出した。


「兄貴・・」


レオはただじっと見ているしかできなかった。


「がはぁ・・」


ドルチェは四つん這いになると、
身体がメキメキと音を立てて変化していく。


両方の腕が変形して二本の足に、
そして人としての足は関節が変形して”獣の足”と変わってゆく。


「・・・」


レオは細い目で見ていた。


「はふぅ」


服からニョキっと顔を出したドルチェは、
スッキリした〜と言わんばかりに息を吐いた。


「兄貴・・別にそんなわざとらしく変身したって
オレは驚かないって」



「つれないな〜
ちょっと雰囲気出そうと声まで練習したのに」



ドルチェはむずがゆい右の前足をペロペロと舐めた。


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12月。
外は寒かった。
今日はシベリアの空気が日本全体を
覆いつくしているらしい。

しかし、北国生まれのレオとドルチェにとっては
そんなことはどうということはなかった。


「シベリアンな匂いがする〜」


ドルチェは鼻をくんくんしながらはしゃいだ。


「すごい解放感に浸ってんな」


「このまま地べたで寝っころがりたいくらいだよ」


「死ぬって」


「暑いよりはマシさ」


「っていうか兄貴さぁ、
一応言っておくけどまだ受験終わったわけじゃないんだぜ。
そんな浮かれてていいのかよ」



「別に散歩してるだけなんだから
どうってことないよ〜」



「それもそうかな・・」


「レオは陰気だな〜
もっと僕みたいにおおらかにならないと」



ドルチェは尻尾を振りながら喜んだ。


「なんつーか・・極端」


「ん?」


「何でもないって。
・・まぁいいか、喜んでるみたいだし」



レオははしゃぐドルチェを見て
やや深く息を吐いた。


「そういえばさー、他のみんなは頑張ってるかな」


「頑張ってるだろ、そりゃ」


「トゥルースは整体の学校行くって言ってたし」


「セータイってマッサージ師のことだろ?
あいつ上がり症なのに大丈夫なんかな」



「それで氷河は体育大学、
エマちゃんは短大、
ガルは・・どうだったかな」



「何にしてももう12月だぜ。
オレらもすっかり日本に馴染んじまったよなぁ」



「・・・」


ドルチェは突然ピタっと止まった。


「兄貴?」


立ち止まったと思いきや、
ドルチェは急に目をつむった。


「おーい」


「静かにして!」


ドルチェの叫びに驚き、
レオはただ、はいと首を縦に振った。


「・・・なんだろう」


妙な空気を感じ取ったのか、
尻尾を硬直させた。


「レオ、何か変な感じしなかった?」


「は?オレは別に何も・・」


「おかしいな、急に違和感感じたんだよね」


「体動かさなかったからじゃない?」


「いや・・そんなはずは・・ん?」


ドルチェは鼻をクンクンと動かした。


「今度は何だ・・」


ドルチェの行動に
レオはただ見つめているしかなかった。


「ここら辺じゃ嗅がない匂い・・」


「匂い?」


「こっちだ!」


ドルチェは風のごとく
四本足で一直線へと駆け出した。


「早!」


レオは訳のわからぬまま
ドルチェの後を付いていった。





「はぁはぁ・・兄貴早すぎ」


レオはひざに手をついてゼェゼェ息を吐いた。


「クンクン・・」


「兄貴?」


ドルチェは引き続き鼻を動かし、
辺りの匂いを嗅いだ。


「あの茂みの中だ」


「はぁ?」


ドルチェは目の先にある
ごく普通の茂みの中を覗いた。


「何だってんだよ・・」


「レオ!」


「は、はい!」


「人が倒れてる!」


「え、マジ?」


レオも恐る恐る茂みの中を覗いた。


茂みの中には
茶色と白の毛並みをした
一人の人間が仰向けになって倒れていた。


「うわ、本当だ;
し、死んでんのかな」



ドルチェは胸に顔を当てた。


トクン・・トクン・・と
心臓の鼓動がドルチェの顔に響く。


「死んではいないよ。
ただ単に気絶してるだけみたい」



「あーびっくりした;」


「それにしても・・この季節に
なんて寒そうなカッコしてるんだろう」



体型からして少年と思われるその人間は、
季節外れのやや灰色のかったTシャツと
半ズボンという格好をしていた。


「兄貴に言われたくはないと思うけど」


「僕は今は普通の狼だからいいの」


「普通ってあのね」


「!」


「え」


「うぅん・・」


少年はゆっくりと目を開けた。
どうやら気がついたようだ。


「あ、気がついたみたい」


「いてて・・一体どうなったんだ・・オレは」


少年は後頭部を抱えた。


「あ、あの」


レオが少年に小さい声をかけた。


「!!」


少年はレオ達に気づくと、
素早い動きでバックステップした。


「な、なんだてめぇら!?」


「え、え、な・・何急に;」


レオは動揺したが、
ドルチェは恐れずに対処した。


「僕らは君が倒れていたのを見つけただけだよ」


「そんなの信用できるかよ・・!
大体動物型の狼がしゃべれるかってんだ」



「え・・」


「まぁ・・そうだよな」


レオは首をかしげて納得した。


「何関心してるんだよ〜」


「ごちゃごちゃうっせぇ!
お前ら・・さてはロウを狙って」



「え、ロウって誰?」


「黙れ!覚悟しろ!」


少年はすかさず背中に背負っていた
弓と矢を取り出した。


「えΣ
それ本物?」



「どう見ても本物っぽい」


少年は慣れた手つきで矢を弦にかけ、
ドルチェ達に方向を定めた。


「なんかマジっぽい・・
逃げるよレオ!」



「ダメだ、間に合わない!」


「覚悟しろ!」


少年は手を離し、
矢は勢いよく飛翔した。


「うわぁぁぁぁ!」


逃げられないと悟った二人は
思わず顔を中心に身構えた。

すると矢は二人のギリギリ手前で
Uターンした。


グサ!


「ぎゃぁぁぁぁぁ!!」


レオとドルチェは
互いにどっちが刺さったと思い、
恐る恐る目を開けた。

すると、矢が刺さったのは
放った少年の方であった。


「ぐぅ・・おお・・」


少年は右ひざを地面につけた。


「お、オレ達・・無事みたい」


「でもあの子がピンチっぽいよ」


「兄貴・・あれがピンチ”っぽい”ように見えるか?」


「くそ・・こ、こんなもの」


少年は左の太ももに刺さった矢を
勢い良く抜いた。


「ぐぁぁぁぁ!」


少年が雄叫びをあげるのと同時に、
刺さった部分から血がブワァっと噴出した。


「すごい・・生の鮮血」


ドルチェは思わぬ光景に
不謹慎にも感心してしまった。


「もう、ゲームから離れろよ!」


レオは一喝すると、
すぐに倒れこんでいる少年の方へと駆け寄った。


「おい、大丈夫か?
しっかりしろって」



レオは少年に手を差し伸べた。


「う、うるせぇ・・誰が
敵に助けを求めるかよ」



「んなこと言ってる場合じゃねぇだろ!?
お前ケガしてんだぜ」



「く・・」


少年の左太ももからはまだ血が流れ出ている。


「ほら、ちょっと動くなよ」


レオはポケットからハンカチを取り出し、
血の流れ出ている太ももをギュっと縛って固定させた。

すると、ピタっと出血が止まった。


「よかった・・何とか血は止まったみたいだ」


「な、何でお前ら・・オレを・・」


「何でって・・人を助けるのに理由なんかいるかよ。
なぁ、兄貴」



「そのセリフ何かのゲームで聞いたような」


「だから、いちいちゲームに例えるなよ;」


「ごめんごめんw
とにかくその子をどっか近い
知り合いの家に連れていって手当てしないと」



「え、病院の方がよくねぇか?」


「病院・・もいいんだけど、
なんとなく病院じゃない方がいい気がして」



「え、なんでだよ」


「フェンリルの勘かなっ」


「・・・」


レオの脳内には?マークでぎっしり埋まっていた。


「っていうか知り合い・・って・・
ここ井の頭公園だぜ。
学校は閉まってるだろうし」



「学校・・」


ドルチェは閃いた。


「あるよレオ。
もろにこっから近い家!」



「え?
・・・あ、そっか」



「いいから、早くその子をおぶってあげないと」


「兄貴はどうすんだよ」


「一足先にその人の家行って事情話してくるから」


「あ、ちょっと」


ドルチェは再び風を切るように
四本足で走り出していった。
その姿はすでに見えなくなっていた。


「なんか展開が速すぎるなぁ・・」


「ぐ・・」


少年はまだ痛がっている。
額からはかなりの汗が流れていた。


「ほら、手をだしなよ。
オレがおんぶしていくから」



「くそ・・」


「ほら」


「すまねぇ・・」


「えっと・・名前なんていうの?」


「・・・」


「言いたくないなら無理して聞かないけど」


「ロンズだ・・」


「ロンズ・・ね」


レオは金髪の少年ロンズをおぶると、
ゆっくりととある知り合いの家に向かって歩いていった。



続く。


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